性犯罪加害者は相談できるところが少なかった

私は、10年ほど前から性犯罪加害者のカウンセリングを行っています。

私が性犯罪加害者からの相談を受け始めたきっかけは、当時は多くのカウンセラーが性犯罪加害者からの相談を断っていたからです。
何件も電話を掛けたけど、相談内容を言うと断られたという人からの相談依頼が何名か続きました。

弁護士の中にも、性犯罪加害者のカウンセリングを行ってくれるカウンセラーを探している人も数名いて、対応してくれるカウンセラーを探すのに苦労したと仰っていました。

私は、性犯罪の背景には性依存症があり、改善のためにはカウンセリングが適しているということは学んでいたので、相談依頼があった時は躊躇なく受けたのですが、断っていたカウンセラーは犯罪者のカウンセリングを行うことに対して、さまざまな理由から抵抗を感じていたのではないかと思います。

現在は、性犯罪加害者の相談を受け付けているカウンセラーも増えているようです。

性犯罪への評価

性犯罪は、人の心身を傷つける犯罪であると同時に依存症でもあります。

私は性犯罪に関する見解を聴きたいと取材を受けることがあるので、テレビや雑誌、新聞などで発言を取り上げて頂いていますが、性犯罪は依存症だという見解に対して「性犯罪が依存症というのは納得できない」というようなコメントがいくつか見受けられました。

このように感じる方たちは、『性犯罪を依存症だと評価することは、病気だから性犯罪を犯したことは仕方がない』という見解のように感じているのではないかと感じますが、私は性犯罪が犯罪であるというのは法律の視点からの評価であり、性犯罪が依存症というのは精神医学や心理学という視点からの評価ですので、私自身も依存症だからと言って性犯罪を犯すことは仕方がないとは微塵も思っておりません。

そして、犯罪である以上は法律によって罰を受ける必要があると思っています。
それと同時に依存症であるからこそ、二度と同じ過ちを犯さないようにする責任が性犯罪加害者にはあると考えています。

依存症だからこそ深刻な問題

逮捕されて罰を受けたにも関わず再犯をする人は少なくありません。
“ダメだとわかっているけど止められない” という状況こそが依存症なのです。
性犯罪加害者は、自分が依存症であることを認めて改善する必要がありますが、『逮捕されて反省しているから、もうしないはずだ』 と安易に考えている人も少なくないという点が性犯罪の大きな問題点でもあると思っています。

性犯罪被害者が出ないためには性犯罪加害者が改善しなければならない

さらに、私は性犯罪は無差別に相手を選んで行われる犯罪で、何の因果関係もない相手から心身を傷つけられる理不尽な行為であると考えています。
無差別だからこそ、女性が気を付けたからと言って性犯罪を回避することも容易ではありません。

このような性質から、性犯罪被害者を作らないためには、性犯罪加害者を減らして行く必要があり、そのための取り組みとして性犯罪加害者のカウンセリングを行っています。

性犯罪加害者は、2度と同じ過ちを繰り返さないための取り組みを続けること、自分の生活を立て直していくことが求められます。
そのために性犯罪加害者が相談できるところとして性犯罪の改善をしっかりサポートできるカウンセラーの存在が必要なので、この問題に力を入れて取り組んでいます。

性犯罪被害者が生まれない社会を目指す

性犯罪加害者が性犯罪を抑止することを援助するカウンセリングを行っていますが、その背景には下記のような思いもあります。

『性犯罪被害者が生まれない社会のために性犯罪加害者を更生させる』

性犯罪加害者からの相談を受けていて、結果的にはその人の生活が改善することを援助しているのですが、思いとしては被害者が生まれないためという点を重視しています。

加害者が相談に来て再犯をしないような状態になっていくことは、その人の生活が改善され、自己管理によって精神的な安定を維持できるようになることでもあるので、加害者の人生の支援をすることにもつながります。

性犯罪加害者という事実から逃げないで欲しい

性犯罪加害者がカウンセリングを継続することは、自分の問題点と向き合うことになるので決して楽ではありません。
性犯罪という明らかな問題点はもちろん、依存症になっていること、依存症になってしまう思考パターンなどを認め、改善していくことが必要になってくるのですが、それらを認めるまでに時間が掛かる人もいますし、中には自分の問題点と向き合う辛さから逃げてしまう人もいます。

ただはっきりと言えることは、自分の問題点を認めて生活習慣を改善していく人は再犯をせずに生活をしているということです。
そして、問題点を認めることができずにカウンセリングを中断した人の中には、再犯をしてしまう人が多いということです。

性犯罪加害者にとってカウンセリングを受けるということは、決して楽なことではありませんが、自分が性犯罪加害者であり性犯罪を抑止し続ける必要性があるという現実から逃げずに取り組んで頂きたいと思います。

性犯罪加害者にとってのカウンセリングの壁

性犯罪加害者にとっては、カウンセリングを受け始めた頃が一番辛いと言えます。
否認の心理が強い段階で、自分の問題点を認めていかなければならないからです。
1、2回でカウンセリングに来なくなってしまう人もいます。

性犯罪加害者であるという事実と向き合うことの辛さを「反省も後悔もしているから再犯はしない」、「自分の意思で行動をコントロールできる」という根拠のない理由で胡麻化し、カウンセリングを中断してしまう人が多いのです。

性犯罪をしてカウンセリングを受けることになった人には、カウンセリングを受けることがどんなに辛くても初期段階を乗り越えて欲しいと思います。
自分の非を認めることは簡単なことではありませんが、同じことを繰り返して被害者を生んではいけません。
また、あなたの家族を悲しませてはいけません。
そして、あなたの人生をもっと大切にして下さい。

カウンセリングの初期段階は辛いと感じる人が多いのですが、そこを乗り越えて二度と性犯罪を犯さないように自分をコントロールする力を高めて下さい。

もう犯罪をしないという油断が再犯につながる

3回目のカウンセリングを受けた人は、その後10〜20回ほどカウンセリングを継続する人が多いです。
このくらいの回数カウンセリングを受けていると、犯罪につながる性衝動が出て来ないようになることがあります。
この段階は、油断の時期でもあります。

このタイミングで、自分はもう大丈夫だと自己判断をしてカウンセリングを勝手に中断してしまう人もおられるのですが、カウンセリングを中断した後の生活の中でストレスが増加したタイミングや性犯罪に関する内容のアダルト動画を見るようになったタイミングで再犯をしてしまう人がいます。
早い人でカウンセリングを中断してから数か月後〜3年以内には再犯をしていて、長い人で10年前後くらいに再犯をしたという人もおられます。

カウンセリングの中断後に再犯をした人は、一度ある程度カウンセリングを受けていたことで性犯罪に関する相談をカウンセラーにすることへの抵抗も弱いので、再度カウンセリングを受け始める方が多いです。

生活習慣が性犯罪を抑止する

カウンセリングの回数が30回以上になってくると、生活習慣の変化が定着してきます。
この段階に入ると再犯率がかなり落ちてくるように感じます。
自分の心の成長、そして心のケアに必要な行動を選択して習慣化できるようになるということは、依存症全般の克服にはとても重要な要素です。

ただ、これは回数が多いから良いというわけではなく、ある程度カウンセリングを継続した上で自分の生活習慣を見直すことが出来ているという点が重要です。
何年もカウンセリングに通っていても、生活習慣の見直しに取り掛かれていない人は話を聴いていても再犯のリスクが高いと感じられます。

再犯を抑止する上で重要なことは、生活習慣が良い方向に変わること、そのための努力を継続したという経験があるということです。
この条件に当てはまっている人は、初来談の時から比べると確かな心理的変化と生活習慣の変化の定着が見受けられます。

性犯罪を止め続けるという決意

性犯罪は『治る』というものではありません。
性犯罪の改善とは、止め続ける力を手に入れることです。
自分の非を認める力、自分の生活を管理する力を養い、性犯罪を止め続けるという意識と行動を継続することが大切です。

私達は、性犯罪加害者に対しては性犯罪を止め続けることと並行して、その人の人生が豊かなものになって欲しいとも願っています。
罪は認め、償うことが必要ですが、それと同時に自分の人生を大切に考えて欲しいとも思っています。